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2024年02月15日

障害者差別解消法をめぐる法律問題

障害者差別解消法をめぐる法律問題

 

<目次>

■1 障害者差別解消法の基礎知識

 (1-1)基本理念、条約との関係

 (1-2)障害者の意義と社会モデル

 (1-3)不当な差別的取り扱いの禁止

 (1-4)合理的配慮の提供義務

■2 就労、教育、生活の具体例

 (2-1)就労(採用、解雇(中途障害)、環境整備)

 (2-2)教育(地域学校、介助者の条件付け)

 (2-3)日常生活における合理的配慮

■3 どう行動するか

 (3-1)どこに救済を求めるか

 (3-2)欧米から見た日本の障害者施策の問題点

■4 関連裁判例の紹介

<内容>

■1 障害者差別解消法の基礎知識

 (1-1)基本理念、条約との関係

 障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律(以下「法」という。)は、①「全ての障害者が、障害者でない者と等しく、基本的人権を享有する個人としてその尊厳が重んぜられ、その尊厳にふさわしい生活を保障される権利を有する」こと(人権保障、生活保障)、②「障害を理由とする差別の解消の推進に関する基本的な事項、行政機関等及び事業者における障害を理由とする差別を解消するための措置等を定める」こと(差別解消措置)、③「障害を理由とする差別の解消を推進し、もって全ての国民が、障害の有無によって分け隔てられることなく、相互に人格と個性を尊重し合いながら共生する社会の実現に資すること」(差別解消、共生社会の実現)を目的にしています(法1条)。

 障害者の権利に関する条約(以下「条約」という。)は障害者の権利、生活、教育、就労等について詳細に規定しており、これを批准するために日本国内の障害者に関連する法律を整備したものです。

 

 (1-2)障害者の意義と社会モデル

 法2条によれば「障害者」とは①身体障害、知的障害、精神障害(発達障害を含む。)その他の心身の機能の障害(以下「障害」と総称する。)がある者であって、②障害及び社会的障壁により継続的に日常生活又は社会生活に相当な制限を受ける状態にあるものをいうと定義されています。

 また「社会的障壁」とは、障害がある者にとって日常生活又は社会生活を営む上で障壁となるような社会における事物、制度、慣行、観念その他一切のものをいうとされています。

 つまり、心身の機能障害という障害があるから障害者になるのではなく、社会的障壁があることによって障害者となってしまうということです。

 例えば、目が見えないという機能障害があったとしても、社会の側で介助者による解除、音声によるアシスト、点字などが準備されていて社会的障壁が取り除かれていれば、日常生活や社会生活に継続的な制限を受けることはなくなり、障害者ではないということになります。

 このように障害者を創り出しているのは社会が障害をもつ者に対して、十分な調整措置を準備していないことによるものだという考え方を障害者の社会モデルと呼んでいます。

  では、社会的障壁となる事物、制度、慣行、観念その他一切のものとはどのようなものでしょうか。

 例えば、視覚障害者は駅などの券売機を操作することができませんので、券売機という事物に音声ガイドによる操作を可能にすることがあげられます。

 また高校や大学の入学試験について筆記試験のみが準備されているという制度では視覚障害者が入学することはできないため、点字や音声介助などの方法を準備することが考えられます。

 この社会的障壁に慣行や観念が含まれていることは重要です。従前の考え方ややり方が、障害をもつ者にとってどのような制限をもたらすのかを具体的に考えることを要求していると読むことができます。

 例えば、会議や講演の資料を紙媒体のみで提供してきた慣行、弁護士は晴眼者でなければならないという観念は、いずれも社会的障壁となるものであり、これらを取り除くための措置(配慮)が必要になるものです。

 

 (1-3)不当な差別的取り扱いの禁止

 行政機関等、事業者は「その事務又は事業を行うに当たり、障害を理由として障害者でない者と不当な差別的取扱いをすることにより、障害者の権利利益を侵害してはならない」とされ、不当な差別的取り扱いが禁止されています(法7、8条)。

 →不当な差別的取り扱いの禁止は、正当な理由なく障害を理由としてサービスの利用や提供を拒否する、場所や時間を制限する、障害者でない者には付けない条件を付けることをいうとされています。

 例えば、スポーツジムやスイミングプールの運営者が視覚障害を理由に利用を拒否したり、時間や行動範囲を制限したり、介助者の付き添いを要求したりすることが考えられます。

 このような差別的取り扱いが不当でないというためには、正当な理由が必要になり、正当な理由があるといえるためには、客観的にみて正当な目的があり、その目的を達成するために必要不可欠な手段である必要があります。

 この正当な目的には、事業の機能の維持や安全の確保、損害の防止等があげられますが、付随的な機能の維持は含まれず、また安全確保等も具体的で客観的な危険の発生が証明されなければ、認められないことになります。

 スポーツジムやスイミングプールの利用制限では、他の利用者の利用など施設の機能に重大な支障をきたすわけではなく、衝突などによる事故の危険性も抽象的なものにすぎないと考えられることから制限は許されないということになるでしょう。

 一方、建設・建築などの工事現場で視覚障害者に一定の行動制限を加えることは足元に機材が置かれていて転倒や衝突の危険があること、足場を歩くことは足を踏み外し転落の危険があることを考えれば、必要最小限の制限はやむを得ないと言えるでしょう。

 

 (1-4)合理的配慮の提供義務

 また行政機関等は「その事務又は事業を行うに当たり、障害者から現に社会的障壁の除去を必要としている旨の意思の表明があった場合において、その実施に伴う負担が過重でないときは、障害者の権利利益を侵害することとならないよう、当該障害者の性別、年齢及び障害の状態に応じて、社会的障壁の除去の実施について必要かつ合理的な配慮をしなければならない。」とされ、合理的配慮が求められています(法7条2項)。なお、現行法(法8条2項)では事業者について「社会的障壁の除去の実施について必要かつ合理的な配慮をするように努めなければならない」とされていますが、令和6年4月の法改正では法的義務になります。ただし、条約では事業者を除外しておらず、東京都等多くの自治体では条例で事業者を含めています。

 不当な差別的取り扱いとの関係では合理的配慮を提供しないという不作為が、不当な差別的取り扱いにあたるということになります。

 条文では、合理的配慮の提供に障害者の意思の表明があった場合と規定されていることから意思表示ができない場合に合理的配慮の提供義務が発生するのかが問題となります。

 例えば、視覚障害のため緊急速報が読み取れず、社会的障壁が発生していること自体を認識できない場合や施設の職員にアクセスできず、意思表明自体ができない場合が考えられますが、客観的にみて社会的障壁を除去する必要が発生している状況であれば、合理的配慮の提供を申し出る必要があると考えられます。

 ここで意思表明があった場合と規定したのは、障害者の意思に反して合理的配慮が押し付けられることのないように障害者の意思を尊重すること、また健常者の側が、社会的障壁が生じていることを認識しておらず、合理的配慮の提供を障害者の側から求める必要があることを考慮したものとされています。

 ただし、障害者の意思表明がないからといって合理的配慮を提供しないことが、正当化されることのないように運用には注意する必要があります。

 合理的配慮の実施が過重な負担となる場合は、提供する義務がなくなりますが、過重な負担がかかることは、行政機関等や事業者の側が証明する必要があります。

 過重な負担といえるためには、業務に機能不全になる程の重大な影響があること、工夫をしても実現できないこと、または人員や費用の負担が過大となることを説明する必要があると考えられます。

 小規模の飲食店では、視覚障害者のために介助者による介助を求めたり、音声ガイド付きの券売機の導入を求めたりすることは、費用の面で実現的でなく、過重な負担といえる可能性があります。

 なお、条約2条には「合理的配慮」とは、「障害者が他の者との平等を基礎として全ての人権及び基本的自由を享有し、又は行使することを確保するための必要かつ適当な変更及び調整であって、特定の場合において必要とされるものであり、かつ、均衡を失した又は過度の負担を課さないものをいう。」と規定されています。

 

■2 就労、教育、生活の具体例

 (2-1)就労(採用、解雇(中途障害)、環境整備)

 (例1)募集要項の採用条件として視覚障害者を除くと記載されていた。

 (回答)不当な差別的取り扱いであり、許されません。

 就労の場面では障害者雇用促進法が規定しており同法34条は「事業主は、労働者の募集及び採用について、障害者に対して、障害者でない者と均等な機会を与えなければならない。」と規定しており、募集・採用にあたって障害者を排除することは許されません。

 (例2)採用条件に視力1.0以上又は運転免許が必要と記載されていた。

 (回答)視覚障害者が排除されることから不当な差別的取り扱いにあたらないかを慎重に検討する必要があります。事業主が意図していなくても、実質的には視覚障害者が就職する機会を奪うことになるため、条件を付ける目的と必要不可欠な手段といえるかを検討します。例えば、トラック運転手やタクシー運転手を採用する目的であれば、運転免許証の条件付けは必要不可欠といえますが、一般事務職であれば、必ずしも運転免許証や視力要件は必要がありません。

 (例3)中途で視力低下し、解雇された。

 (回答)タクシー会社に勤務している運転手で、解雇を無効(違法)とした裁判例があります。運転手ができなくても内勤の業務があり、異動により継続ができないかを検討しなければならないとされています。

 この点、障害者雇用促進法35条は「事業主は、賃金の決定、教育訓練の実施、福利厚生施設の利用その他の待遇について、労働者が障害者であることを理由として、障害者でない者と不当な差別的取扱いをしてはならない。」と規定しています。

 (例4)就労中に視力低下した場合、何を会社に求めることができるか。

 (回答)業務の変更、PC等音声アシスト、介助等合理的配慮を求めることができます。

 雇用促進法36条の3は「事業主は、障害者である労働者について、障害者でない労働者との均等な待遇の確保又は障害者である労働者の有する能力の有効な発揮の支障となつている事情を改善するため、その雇用する障害者である労働者の障害の特性に配慮した職務の円滑な遂行に必要な施設の整備、援助を行う者の配置その他の必要な措置を講じなければならない。ただし、事業主に対して過重な負担を及ぼすこととなるときは、この限りでない。」と規定しており、施設の整備や援助を行う者の配置を求めることができます。

 

(2-2)教育(地域学校、介助者の条件付け)

 (例5)視覚障害児童が地域の普通学校で学びたい。

 (回答)障害児童には地域の普通学校で学ぶ権利があります。

 条約24条2項は「締約国は、1の権利の実現に当たり、次のことを確保する。

(a) 障害者が障害に基づいて一般的な教育制度から排除されないこと及び障害のある児童が障害に基づいて無償のかつ義務的な初等教育から又は中等教育から排除されないこと。

(b) 障害者が、他の者との平等を基礎として、自己の生活する地域社会において、障害者を包容し、質が高く、かつ、無償の初等教育を享受することができること及び中等教育を享受することができること。」と規定しています。

 日本における盲学校等特別支援学校は2022年に出された国連障害者権利委員会の総括所見において問題があることが指摘されています。

 (例6)視覚障害を理由に修学旅行に行けないとされた。介助者の同行を求められた。

 (回答)不当な差別的取り扱いにあたると考えられます。学校側が正当な理由のあることを説明する必要があります。

 この点、条約24条2項は教育における合理的配慮に関して「(c) 個人に必要とされる合理的配慮が提供されること。

(d) 障害者が、その効果的な教育を容易にするために必要な支援を一般的な教育制度の下で受けること。

(e) 学問的及び社会的な発達を最大にする環境において、完全な包容という目標に合致する効果的で個別化された支援措置がとられること。」と規定しています。

 

 (2-3)日常生活における合理的配慮

 (例7)アパート等部屋を借りたいが、火事を起こす又は一人暮らしは無理との理由で拒否された。

 (回答)障害を理由に賃貸を拒否することは許されません。国土交通省指針にも規定があります。

 この点、条約19条は、「この条約の締約国は、全ての障害者が他の者と平等の選択の機会をもって地域社会で生活する平等の権利を有することを認めるものとし、障害者が、この権利を完全に享受し、並びに地域社会に完全に包容され、及び参加することを容易にするための効果的かつ適当な措置をとる。この措置には、次のことを確保することによるものを含む。

(a) 障害者が、他の者との平等を基礎として、居住地を選択し、及びどこで誰と生活するかを選択する機会を有すること並びに特定の生活施設で生活する義務を負わないこと。」と規定しています。

 (例8)ATM等のタッチパネルを操作できない。

 (回答)窓口での対応または介助を求めることができます。自治体によっては窓口業務の手数料がATM利用の場合と同等に減額される措置をとっているようです。

 条約9条2項は「締約国は、また、次のことのための適当な措置をとる」とあり、「(b)公衆に開放され、又は提供される施設及びサービスを提供する民間の団体が、当該施設及びサービスの障害者にとっての利用の容易さについてあらゆる側面を考慮することを確保すること。」、「(d) 公衆に開放される建物その他の施設において、点字の表示及び読みやすく、かつ、理解しやすい形式の表示を提供すること。」と規定しています。

 

■3 どう行動するか

 (3-1)どこに救済を求めるか

 健常者は特に認識していなくても健常者の従前の観念で行動しています。障害者が感じる困難は障害者でなければわからないため、主体的に判断して疑問を投げかける必要があります

 不当な差別的取り扱いが疑われる場合、まずは当事者間で交渉してみます。つぎに役所の相談窓口、また個人の権利・利益が侵害されている場合は弁護士に相談して、司法的な救済を求めることが考えられます。

 車いす利用者など肢体不自由障害者に比べて視覚障害者が権利を主張することは少ないようなので、もっと積極的に主張してよいのではないでしょうか。

 

 (3-2)欧米から見た日本の障害者施策の問題点

 日本の障害者に対する施策は欧米に比べてかなり遅れていると考えられます。

 日本では、障害者の意思を問うことなく、強い立場にある政府が弱い立場にある障害者の利益を保護するというパターナリズム(父権主義)が働いているといわれています。

 そのため、障害者を特別支援学校や施設に分離・隔離して保護してきた歴史があり、障害者の権利意識が強くなりにくかったと考えられます。

 国際的な多様性と包摂性の動向から今後は日本における障害者の社会的地位を上げていくよう個々の障害者が積極的に取り組む必要があります。

 

■4 関連裁判例の紹介

 (4-1)名古屋地裁平成17年12月16日判決(ウエストロー2005WLJPCA1216001、判例タイムズ1264号221頁)

 私立高校の教員であった原告が病気により視力が低下し視覚障害1級となったのち、教科担当を外され事務職員への異動とされた事案について、そもそも教員から事務職員への移動が規定になく異動は無効であるとして教諭の地位にあること、220万円の慰謝料損害を認めました。

 この裁判例では視力低下を理由とする異動を議論するまでもなくそのような人事異動が認められないとして地位確認と慰謝料損害を認めました。

 いずれにしても視力低下を理由に教科担当を外すような人事異動が本人の同意なく認められるとは考えにくいところです。

 (4-2)神戸地裁平成28年5月26日判決(ウエストロー2016WLJPCA05266003)

 日本史の高校教諭であった原告が勤務する高校から業務命令により教材研究のみを担当業務とされていることにつき、業務命令が無効であること、一連の退職勧奨が嫌がらせともとれるものであり違法であるとして慰謝料損害を認めました。

 本件も視覚障害を理由に教科担当を外す業務命令について無効であるとして教諭の地位にあることが認められました。

 (4-3)岡山地裁平成29年3月28日判決(ウエストロー2017WLJPCA03286007)

 短期大学の准教授であり網膜色素変性症による視覚障害を有する原告に対し、授業を割り当てないとする業務命令がパワハラにあたるとして違法とされました。

 本件は退職に向けた嫌がらせで研究室を使わせない、仲間外れにする等の行為もあり解雇ではないものの視覚障害者である原告を退職に追い込もうとする目的が明らかであるという事案でした。

水野健司特許法律事務所

弁護士 水野健司

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