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2023年06月27日

[医療]脳梗塞が疑われる状況でMRI等検査義務が認められた事例

■事案の概要

 入院中の患者に新たな脳梗塞が疑われる症状が現れていたにもかかわらずMRI等の検査を実施しなかった点に過失があるとして過失を認め、重い後遺障害の程度を軽減できたとしました。

■裁判所の判断

 裁判所は、「11月13日午後8時の時点での原告の症状は,新たな脳梗塞を発症したものとみても矛盾しないものであり,それを否定する確たる根拠もなかったといえる。また,本件CT画像は,読影時点を基準にしてもアーリーCTサインと疑う余地のあるものであったといえる。B医師は,これらを踏まえつつ経過観察としたというのであるが,一般に脳梗塞は,早期に発見し治療を開始することで予後の改善可能性が高まる疾患であって(甲B8,B・75・92,C再補充鑑定書p2),発症から一定時間が経過すれば不適応となる治療法も少なくないこと(前提事実3(2)エ)からしても,早期に脳梗塞か否かを鑑別するための対応をする必要があったというべきである。」

  そして,証拠(前提事実3(2)ウ(ウ),C鑑定書p3)によれば,脳梗塞の発症を鑑別するための更なる検査としては,MRI検査の拡散強調画像(DWI)撮影又は造影CT検査を行うことが有効であると認められ,かつ,被告病院においても上記MRI検査又は造影CT検査を行うことが可能であったと認められるから,それらの検査を行うことによって,原告の本件脳梗塞の発症を診断できたものと認められる。」として、「B医師としては,11月13日午後8時の時点で,上記MRI検査又は造影CT検査を実施すべき義務(厳密には検査を指示し又は実施すべき義務)があったというべきところ,これらの検査をしなかったのであるから,同義務違反があるというべきである。」として過失を認めました。

 ただし、「B医師が本件検査義務を履行したことによって本件後遺症が大幅に軽減できたとは認め難く,軽減の程度は小さかった可能性が高いと見込まれる。」として150万円の賠償義務を認めました。

 また本件では「患者が適切な医療行為を受けることができなかった場合に,医師が,患者に対して,適切な医療行為を受ける期待権の侵害を理由とする不法行為責任を負うことがあるか否か」について、」当該医療行為が著しく不適切なものである事案について検討し得るにとどまるべきものである(最高裁平成23年2月25日判決・裁判集民事236号183号参照)。」として本件では、「 上記2で説示したとおり,B医師の本件検査義務違反の過失については,原告の症状が11月2日に発症したてんかん発作の再発とも理解し得るものであったこと,脳梗塞を疑うべき右片麻痺の確認が意識障害や四肢弛緩のために困難であったこと,本件CT画像からアーリーCTサインを読影することが容易であったとはいえないことなどを踏まえると,著しく不適切な医療行為であるとまでは評価できない。」として否定しました。

■コメント

本件の患者は過去にも脳梗塞の既往症があったため陳旧性の脳梗塞についててんかん発作を発症する可能性があり症状が類似しているため新たな脳梗塞の発症につきMRIや造影CT検査の義務が認められにくいという事情がありました。裁判所は新たな脳梗塞を疑い検査をすべき義務を認めましたが、患者の家族がファクシミリで検査を要求したこと、MRI検査を決定してから実施までに時間がかかったことなども考慮されたのではないかと思います。

 脳梗塞は時間が経過すれば実施ができなくなる治療法もあり、いずれにしても緊急性の高い事案であるといえます。

以上

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